

「今、集中できていますか?」
突然そう聞かれたとき、あなたはどう答えるでしょうか。
「まあ、できているかな」 「少し眠いかも」
そう答えることはできても、それがどの程度なのかを数値で説明できる人は多くありません。
私たちは、自分自身の集中状態や疲労感、眠気を必ずしも正確に把握できるわけではありません。集中しているつもりでも注意が散漫になっていたり、疲れていないと思っていても作業効率が低下していたりすることがあります。だからこそ、本人の感覚だけに頼らず、客観的なデータを手掛かりに状態変化に気づくことが大切です。
見えないから気づけない。 気づけないから適切な対策が打てない。
こうした課題は教育現場だけでなく、オフィスや製造現場、スポーツ分野などでも共通しています。
だからこそ今、人の状態やコンディションの変化を客観的なデータとして推定・可視化する技術に注目が集まっています。

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5:まとめ
L プライバシーと適切な活用
L 製品の位置付け
「集中しているつもり」は本当に集中しているのか
自分のパフォーマンス状態を正確に把握することは、思った以上に難しいことです。
自分の集中状態や理解度を、本人の感覚だけで正確に判断することは簡単ではありません。そのため教育現場では、学習成果や行動の記録、教員による観察、本人の振り返りなど、複数の情報を組み合わせて学習状態を捉えることが重要です。
これは子どもに限った話ではありません。大人も同様に、自分の集中度・疲労度・眠気を過小評価・過大評価しやすい傾向があります。「疲れていない」と思っていても、作業効率はすでに落ちている――そういったケースは、職場でも日常的におきています。
こうした課題に対して、現場では長年「アンケートによる自己申告」が活用されてきました。
「今日の集中度を5段階で教えてください」 「現在の体調はいかがですか?」といった問いかけは、シンプルで実施しやすい手法ですが、自己申告には構造的な限界があります。
そのため近年では、アンケートや観察だけでなく、生体情報などの客観的なデータを組み合わせながら状態を把握しようとする取り組みが広がっています。
心拍変動(HRV)は、心拍と心拍の間隔の変化を解析し、自律神経活動や覚醒状態の変化を間接的に捉える指標として研究・活用されています。一方で、HRVだけから特定の感情や心理状態を直接判定できるわけではありません。呼吸、姿勢、運動、体調、周囲の環境など複数の要因の影響を受けるため、他の情報と組み合わせて参考指標として活用することが重要です。
心拍や心拍変動の解析は、自律神経活動や身体状態の変化を捉えるための研究に用いられてきたアプローチの一つです。
一方で、特定の感情や心理状態そのものを直接測定・診断するものではありません。
脈拍データはあくまで状態変化を推定するための参考指標であり、他の情報と組み合わせて活用することが重要です。

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心拍や心拍変動と人の状態変化との関係は以前から研究されていましたが、「現場で手軽に使える」レベルに達したのはごく最近のことです。
センサー技術・通信技術・データ処理技術の急速な進化により、小型・低コスト・非接触での生体情報計測が実現しました。
かつては医療機関や研究室でしかできなかった測定が、今や日常の現場に持ち込めるようになっています。
テクノロジーの進化だけでなく、働く人の満足度や働きやすさ、生産性への関心が高まっていることも背景にあります。厚生労働省の「令和5年版 労働経済の分析」では、賃上げが仕事へのモチベーション向上などを通じて、企業や個人の生産性向上に寄与する可能性が示されています。
2015年12月には、労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度が施行され、労働者数50人以上の事業場に年1回の実施が義務付けられました。また、2028年4月1日からは、労働者数50人未満の事業場にも義務化されます。
ストレスチェックは、労働者自身にストレスへの気づきを促し、メンタルヘルス不調を未然に防止する制度です。一方で、日々の集中度や眠気、疲労感の変化を把握する目的では、年1回の検査とは役割が異なります。状態推定データは制度の代替ではなく、日常的な環境改善や本人への気づきを補助する情報として位置付けることが重要です。
教育の現場でも同様の動きがあります。文部科学省は「個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実」を推進しており、子ども一人ひとりの状態・習熟度に応じた対応が求められています。
多くの児童・生徒が学ぶ教室で、一人ひとりの状態変化を教員が目視や経験だけで継続的に把握することは容易ではありません。そこで、教員の観察を置き換えるのではなく、客観的なデータで補完する考え方が注目されています。
※参考:文部科学省「個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実」
スマートウォッチや心拍センサーなどのウェアラブルデバイスも、生体情報の計測手段として広く普及しています。しかし現場での活用には、いくつかの課題が残っています。
ウェアラブルデバイスは、生体情報を継続的に取得できる有用な手段です。一方、教室や職場などで運用する場合には、機器の装着・充電・管理、多人数への配布、利用者への説明などが必要になります。また、装着していることを意識する人もいるため、利用目的や対象環境に応じて計測方法を選ぶ必要があります。
また、人は観察や測定の対象であることを意識すると、普段とは異なる行動を取る可能性があるという研究も報告されています。
このような現象は一般に「ホーソン効果(Hawthorne Effect)」と呼ばれます。ただし、観察による影響の現れ方は状況によって異なり、常に同じ変化が生じるとは限りません。非接触・非装着の計測方法は、装着負担を軽減し、利用者が日常に近い状態で参加しやすくする選択肢の一つと言えるでしょう。
こうした課題を背景に生まれたのが、非接触・非装着で脈情報を取得し、感情・状態を可視化する技術です。
非接触で取得した脈のゆらぎを独自のアルゴリズムで解析し、集中度や眠気度などを推定した参考指標として可視化します。
数値は状態変化を捉えるための参考指標であり、医学的な診断を目的とするものではありません。
軸 | 内容 |
集中度 ⟺ 眠気度 | 現在の集中状態の変化を示す参考指標 |
活性・緊張 ⟺ 落ち着き | 今、どのくらい興奮・リラックスしているか |
「集中している」「眠くなっている」「リラックスしている」「緊張や焦りがある」といった状態は、従来は主観的に捉えられることが多いものでした。状態推定技術では、こうした変化を0~100%の参考指標として可視化し、本人や周囲がコンディションの変化に気づく手掛かりとして活用できます。

レスターオリジナル開発のダッシュボード「エモスタトナビゲーター」で数値を確認
ある小学校で行われた約2か月間、53名を対象とした実証実験では、授業中の集中度の推移を可視化しました。このデータは、授業中の声掛けや授業運営の見直し、授業後の振り返りに活用されました。実証結果は一つの活用例であり、対象環境や運用方法によって得られる示唆は異なります。
「子どもの集中力は長く続かない」という経験的な感覚は以前から知られていましたが、状態変化をデータとして把握できたことで、授業設計や声掛けのタイミング改善に活用できる可能性が示されました。
感覚だけでは捉えきれなかった変化を把握し、改善につなげられることは、状態可視化技術の大きな価値の一つといえます。
状態推定データを活用するうえで重要なのは、人を評価・監視するためではなく、本人や周囲が変化に気づき、必要な支援や環境改善につなげるために使うことです。
集中度が下がっているというデータは、「この人は怠けている」という意味ではありません。疲労が蓄積しているのかもしれません。 室温や騒音など環境要因の影響かもしれません。 業務や学習内容が難しすぎるのかもしれません。
データはあくまで、「何らかの変化が起きている可能性」を示すサインです。
重要なのは、そのサインをきっかけとして人が適切な行動を取れるようになることです。
✔ 教師であれば、声掛けのタイミングを考える
✔ 管理職であれば、休憩や業務配分を見直す
✔ 施設管理者であれば、環境改善につなげる
経済産業省の「人材版伊藤レポート2.0」では、従業員のウェルビーイングやエンゲージメント向上が人的資本経営の重要な要素として位置付けられています。
状態可視化データも、人を管理するためではなく、一人ひとりがより良い状態で働き、学び、活動するための環境づくりを支援する目的で活用するとよいでしょう。
状態推定データを活用する際は、利用目的、取得するデータ、閲覧できる人、保存期間などを事前に明確にし、対象者へ分かりやすく説明することが重要です。データを人事評価や懲戒の根拠として単独で使用せず、環境改善や本人への支援につなげる運用方針を定める必要があります。
また、取得データの内容によっては個人情報やプライバシーに関わる情報として扱う必要があります。導入時には、利用目的の明確化、本人への説明、同意取得、閲覧権限の管理、保存期間の設定などを事前に整理し、社内ルールに沿って運用することが求められます。
エモコアイは、三菱電機が開発した非接触型センサーです。レスターは、エモコアイで推定した集中度、眠気度、消耗度、活性・緊張度、呼吸強度、脈拍数などの状態データと、温度・湿度・CO₂濃度などの環境データを、ダッシュボード「エモスタトナビゲーター」で分かりやすく可視化します。
なお、本ソリューションは医療機器ではなく、疾病や心理状態の診断を目的とするものではありません。
脈拍や心拍変動から得られる情報は、人の状態変化に気づくための一つの手掛かりになります。
ただし、数値だけで感情や能力を断定するのではなく、本人の声、行動、周囲の環境などと併せて確認することが大切です。状態推定データを「評価」ではなく「気づきと環境改善」のために活用することで、教育や職場など、さまざまな現場でより良い判断をサポートできます。
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